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進路部通信 新宿通信67号に阿部浩一さん(38回)が寄稿

 2021年7月16日発行の進路部通信「新宿通信」67号に、「大学での学びとは」と題して、38回 阿部浩一さんが寄稿しました。

 阿部さんには朝陽70号に「東日本大震災十年の福島から」と題してご寄稿いただいております。地震から救出した古文書の整理などに興味のある方はこちらもご覧ください。

** 以下 新宿通信67号への寄稿内容 **

「大学での学びとは」

福島大学行政政策学類教授
阿部浩一(38回)

 私は東京から新幹線で1時間半ほどの福島市にある福島大学で、日本中世史を専門に研究し、学生たちに歴史学を教え、学芸員資格や教員免許に係る授業を担当しています。母校の高校教員を夢見るごく平凡な一学生であった私が、結果として東京大学に進学し、研究者の道を歩むに至った経緯については、第2回の『進路部通信』に寄稿しましたので、よければご一読ください。今回は東日本大震災10年をきっかけにお声がけいただきましたが、2度目の登場は初めてだそうで、身に余る光栄です。せっかくの機会ですので、大学の学びとはどんなものなのか、皆さんの参考にしてもらえる話ができればと思っています。

 大学というと、大教室で何百人も一斉に授業を受けるイメージがあるかもしれません。COVID-19の感染拡大の影響で授業のオンライン化が急速に進み、学びのあり方も否応なしに変わりつつあります。それでもやはり、最も大切な学びの場はゼミナールです。文系・理系、学部の規模や専門分野によっても異なるでしょうが、数名から20名程度の比較的少人数で、教員と学生が特定の専門領域やテーマについて文献輪読や実験を行い、発表や討論を通じて学問を深めていくものです。就職に強い人気のゼミに進む選び方もあるでしょうが、専門に深く切り込んでいく以上、自分がその分野に強い関心や学ぶ意欲を持っていなければ、正直いって辛いと思います。今どきの大学は出席管理も厳しいです。学部・学科選びには、将来就きたい仕事のために必要な専門性や資格などの情報だけでなく、どんなことなら意欲的に学べるのか、興味関心や適性などの自己分析も大切です。

 ちなみに、私のゼミ生たちは漢文体で書かれた中世史料の輪読のほか、地震や水害の被災から救出した古文書の記録整理の実習、特定の地域を博物館に見立て、学生目線で歴史・文化遺産を再発見する「地域まるごと博物館」づくりのフィールドワークなどに取り組みながら、学芸員資格や教員免許の取得を目指して学んでいます。学生たちの地域貢献活動の成果の一部は、今夏に開館予定の福島県富岡町のアーカイブ施設で知ることができます。気兼ねなく旅行できるようになったら、東日本大震災と福島第一原発事故に遭った地域のあゆみと経験を学びに、ぜひ見学に行ってみてください。

 専門で歴史を学んでも、それを活かせる学芸員や教員になれるのはごく一握りで、多くは地元に貢献したいと、自治体や民間企業に就職していきます。だからこそ、ゼミ生たちには専門外のことでも自分の頭で考え、創意工夫して解決できる応用力を身につけさせたいと思っています。そのためには、自分で課題を発見し、調べ方を探し求め、調査結果をもとに発表にまとめ、仲間と議論しあい、皆が納得するよりよい結論を導き出し、その成果を論理的にまとめるという経験が必要です。それができるのが大学のゼミです。素材は法律でも統計でも、文学でも中世史料でも、ゼミでの訓練を通して身につけるべき力は一緒です。

 高校の日々の授業にも、一つ一つに奥深い学びの世界のエッセンスが散りばめられています。アンテナを高く張り、瑞々しい感性で受け止め、貪欲に知識を吸収してください。進路とは無縁に思えるような苦手科目だって、将来使うことは全くなくても、学んだ知識や経験は人生のどこかで必ず役に立ちます。学問とはそういうものです。専門的な学びへの手掛かりを模索しつつ、幅広い教養を身につけること、これが大学での学びから将来へとつながっていきます。皆さんの豊かな可能性を信じ、さらなる健闘をお祈りします。
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なお、新宿通信67号の紙面はこちらからご覧いただけます