「世界鉄道めぐり」
                  
        交通新聞社  1680円

 「世界鉄道めぐり」というタイトルを見ると、鉄道マニア向けの書物のように思われるかもしれないが、サブタイトルに「歴史と芸術を訪ねて」とあるように、この書は単なる<鉄道めぐり>ではない。
 もちろん、鉄道の歴史や列車の運行状況などの記述もあるけれど、それ以上に筆者の愛する芸術家たちにゆかりあるまちを訪ね、様々なエピソードを交えての叙述が実にいい。
 絵画では、印象派の画家たちからフェルメールの絵まで追って旅をする。音楽では、マーラー、ヴェルディ、ワグナー、ショパン、チャイコフスキィ、そしてヨハンシュトラウス。列車の響きの合間にメロディや歌が聞こえてくる。映画「戦場のピアニスト」の舞台となったポーランドや、シェイクスピア「ハムレット」のデンマークの古城や、トルストイ「アンナ・カレーニナ」の終章で主人公が汽車に飛び込むロシアの駅なども登場する。
 著者には、鉄道のテクノクラートとして「新幹線がなかったら」・「なぜ起こる鉄道事故」(東京新聞出版局・朝日文庫)、「東北・上越新幹線」(JTBパブリッシング)といった労作があるが、こうした専門性の高い鉄道書になじむことのできない方でも、この鉄道めぐり列車にはすなおに身を委ねることができるだろう。
 <世界>とはいっても主としてヨーロッパが中心だが、魅力的な写真も多数掲載されており、この一冊で豊かな旅を愉しめる好著である。                     
                                   (佐藤喜一記)

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・・ヨーロッパではなんといっても絵画、
音楽、文学などの文化の厚みと、多くの
偉人たちの思い出に圧倒される。そのう
ちに、単なる観光だけでは物足りなくなっ
てきて、こうした芸術のゆかりの地と偉人
達の足跡をたどりたくなってきた。当然の
ことながら、本来の;業務である鉄道の歴
史にも関心があった。そうした思い出の旅
の一端をまとめたのが本書である。

           著者「あとがき」より





 





    山 之 内 秀 一 郎 会 長 の 新 著 紹 介